私が医師になろうと思ったのにはいくつか理由があるが、そのうちの一つは医師にさえなってしまえばもう競争社会から抜け出せるからではないかと思ったからであった。
小中高とスポーツ学業ともに割とバリバリしてきた方だと自分では思っているのだが、それらはどちらとも数字として優劣が付けられるものであった。
仲間は常に、友達でもありライバルでもあった。
甘えることができるのは一握り。
どちらかというと高め合う関係といった方が正しい、そんな関係であった
医師は、医師国家試験というほとんどの医学科学生にとり難関とされる試験を突破しなければなれない職業であり、全員に一定の医学知識があることの証明がなされている。それはつまり医師になってしまえば横並びで全員同等で優劣がないのではないということを意味すると思ったのである。仲間はただどこまでも仲間であり、心穏やかに働けると思ったのである。
稼いでいてもいなくても、地位があってもなくても、都会でも田舎でも、それは優劣ではなく職務内容が違うだけで、全員が誇りを持ち、かつ互いに尊敬し合って働いているような、そんな職業だと、思っていたのだ。
(本来は医師に限らず、全人類そのようにどんな生き方をしている人に対してもそのような考えであるべきだが、いまは目を潰させていただく)
実際医学部に入ってみて、まあもちろん多少の競争はあるものの、小中高時代に比べると表立った競争はなくなったように感じる。
とても居心地がいい。
心穏やかに、ぬくぬくとした日々を過ごしている。
しかしここで問題が起きた。私は一切努力をしなくなったのだ。
勉強でも部活でも、成長することができなくなった。底辺を彷徨っている。
なぜこんなにも伸びないのか、一番の要因と考えられたのはやる気の欠如だった。
そう、私は競争がなければ努力できないクズ人間だったのだ。
競争至上主義でマウント合戦をするなど、私が最も嫌う人種なのだが
私こそ、まさにそんな人間だったのだ。
心穏やかに生きることと、成長することは
私の中では共存し得ないのだと確信した。
どちらか一方しか、私は追求することができない
悲しい哉。